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徳島地方裁判所 平成5年(行ウ)8号 判決 1994年4月15日

原告

圃山靖助

右訴訟代理人弁護士

井上善雄

小田耕平

被告

(徳島市長) 三木俊治

(徳島市財政部長) 杉本達治

右被告ら訴訟代理人弁護士

朝田啓祐

理由

二 請求原因2(二)(違法性)について判断する。

1  地方自治法二〇四条の二は、普通地方公共団体が法律又はその委任を受けた条例に基づかないでその職員に対し給与その他の給付を支給することを禁じているところ、地方公共団体が民間の賃貸マンションを賃借の上、これを特定の職員に宿舎として貸与し、貸主に対する賃料の支払のために公金を支出することが同条にいう「その他の給付」に該当するか否かを検討するに、貸与にあたり当該職員から相当な対価の支払を受ける場合及び当該職員がその従事する職務上の必要からその宿舎に居住することが要請されている場合には同条にいう「その他の給付」に該当しないと解すべきであるが、貸与にあたり当該職員から相当な対価を徴収せず、かつ、当該職員がその従事する職務上必ずしもその宿舎に居住することが要請されていない場合に、その貸主に対する賃料の支払のために公金を支出することは、当該職員に対して直接的な経済的利益を与えるものであるから、同条にいう「その他の給付」に該当し、法律又はそれに基づく条例に基づくものでなければ違法性を帯びると解すのが相当である。

これを本件マンションの貸与及び公金の支出についてみるに、前記争いのない事実によれば、徳島市は、当時、市の財務部長の職にあった被告杉本に対し本件マンションを宿舎として貸与するにあたり、一か月九〇〇〇円前後の使用料を徴収していたものであるが、右金額は、市が本件マンションを取得し維持するための費用として一か月当たり少なくとも支払賃料相当額である四万五〇〇〇円を要することを勘案すると、対価としての相当性を欠くというべきであるし、また、同被告が財務部長としての職務を遂行する上で本件マンションに居住することが要請されているとは認められないのであるから、本件マンションの貸与及び公金の支出は、地方自治法二〇四条の二にいう職員に対する「その他の給付」に該当するものというべきである。

2  次に、本件マンションの貸与及び公金の支出が法律又はその委任を受けた条例に基づくものであるか否かをみるに、地方公共団体の職員に対する宿舎の貸与について直接規定した法律の規定はない上、徳島市には、職員宿舎の貸与について直接定めた条例はなく、本件マンションの職員に対する貸与又は被告杉本のような国からの出向職員に対する宿舎の貸与について特に定めた条例の規定もないのであるから、結局、本件マンションの貸与及び公金の支出は、法律又はその委任を受けた条例に基づくものではないといわざるを得ない。

この点に関し、被告らは、本件マンションは、国からの出向職員の宿舎を確保するという行政目的のもとに賃借されているものであるから、その権利は行政財産に準ずべきものであり、被告杉本に対する貸与は、その行政目的に沿った使用であって、徴収使用料は、行政財産の維持費負担金に類するものであると主張する。

しかしながら、前記のとおり、被告杉本に対する本件マンションの貸与は、同被告の職務遂行上の必要に基づくものではないのであるから、これを行政財産のその行政目的に沿った使用の場合に準じて扱うことは相当ではない。

よって、本件マンションの貸与及び公金の支出は、地方公共団体のその職員に対する法律又はその委任を受けた条例に基づかない給付として、地方自治法二〇四条の二に違反する違法なものといわざるを得ない。

三 請求原因3(損害)について

前記のとおり、徳島市が本件マンションの平成三年四月から平成五年三月までの毎月における賃料四万五〇〇〇円と徴収使用料八九六五円の差額及び同年四月における賃料四万五〇〇〇円と徴収使用料七七九七円の差額を合計した九〇万二〇六一円を負担したこと、また、後日、平成三年度及び平成四年度の徴収使用料が月額九一九三円に訂正され、被告杉本から右差額合計五四七二円の追納付を受けたことは当事者間に争いがないから、徳島市が本件マンション貸与及び公金の支出により被った損害は八九万六五八九円となる。

四 請求原因4(責任原因)について

1  被告三木

被告三木が本件マンション貸与及び公金の支出の当時、徳島市の市長の職にあったことは当事者間に争いがないところ、地方公共団体の長である市長は、市を統括し、これを代表する地位にあるとともに、市の予算執行、使用料等の徴収、財産の管理等の事務を行う本来的職責を有するものであるから、同被告は、違法な本件マンションの貸与及び公金の支出につき、少なくとも過失があるものと認めるべきである。

2  被告杉本

被告杉本は、本件マンションの貸与及び公金の支出により、市の前記損害と同額の利益を得たが、本件マンションの貸与及び公金の支出が前記のとおり違法なものであるから、右利益は法律上の原因に基づかないものである。

五 請求原因5(監査請求)は当事者間に争いがない。

六 よって、被告三木は、不法行為に基づく損害賠償として、また、被告杉本は、不当利得の返還として、各自徳島市に対し、本件マンション貸与及び賃料支払により徳島市に生じた損害金八九万六五八九円及びこれに対する本件訴状送達の日である平成五年八月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 佐茂剛)

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